移動動物園

移動動物園 佐藤泰志著

栗鼠と仔兎とモルモット、アヒルとインコと山羊のポゥリイ。よい子のために幼稚園を回る移動動物園。達夫はそこで飼育係をしていた。マイクロバスと動物たちの小屋を置いている恋ヶ窪駅側の空き地は、来年の夏には立ち退かなくてはならない。移動動物園の園長は、学習雑誌社やデパートの愛玩動物売り場と提携して、何日も何ヶ月も転々と全国を回ることを夢として、熱心だった。達夫はそんなことは真っ平御免で、きっとポゥリイもそうだろうと思う。一羽のインコに言葉を教えるのは道子だった。道子は達夫より三つだけ年上で、達夫を何かと坊やとからかうのである。移動動物園に顔を出す青木は、左耳だけが七十歳、タイヤの爆発のせいだった。青木は通りで仔兎を売るのを生業としていて、移動動物園で生まれる仔兎を買っていっていた。ポゥリイはいつも穏やかで、アヒルは水に浸かっている。インコは覚えたての言葉を話し、夏の最中で一匹の兎が子供を産んだ。道夫は皮膚病に罹った栗鼠に赤チンを塗りたくる。きっと秋には治るだろう。よい子のための移動動物園。子供の手に余るような動物は不要である。

タイトルから勝手に想像していた雰囲気とは大分違っていて、面食らいました。けれども、先日読んだ『大きなハードルと小さなハードル』の著者だったと思い返して、納得です。『移動動物園』という物語のなかの、真夏の熱気が湿気をともなって伝わってきます。むせ返る草の臭いが始終付きまとうようでした。登場する人物たちの、密着しすぎない距離感が好きです。表面的には薄情なくらいかもしれないけれど、リアリティが感じられるところが好みです。けれども『移動動物園』の道子や、前読『大きなハードル〜』に出てきた女性もそうだけれど、共感できないけれど特別憎らしく思うでもなく、なんとも曖昧で微妙な気持ちになりました。共感できる人物像はもちろん、「すっごく憎らしいなこの人」と思うような人物像も、そう思えるほど魅力的なんだよなぁなんて思います。反して、静かに何かの塊をふつふつと内包している男の人というのは、この『移動動物園』然り、『大きなハードル〜』然り、胸苦しさを感じるほどに描かれていて、物語自体といってもいいほどでした。
マンションの管理人が主人公の『空の青み』や工場勤務の男性を通した日々を描く『水晶の腕』も、『移動動物園』と相通じる雰囲気でした。
『移動動物園/空の青み/水晶の腕』の三篇。

THEME:読んだ本。 - GENRE:本・雑誌

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