骨笛

骨笛 皆川博子著

『沼猫/月ノ光/夢の雫/溶ける薔薇/冬薔薇/噴水/夢の黄昏/骨笛』の八篇。
どれもこれもの空間の歪み具合が好きです。
『沼猫』に登場するマユ。マユは平凡な感想には軽蔑の視線をなげかけ、ありふれた場面の登場人物と化すのは我慢がならないだろう性格です。そして、またいとこという関係となっている高志を、ウサギママのコーヒー屋『カト』に呼び出す時にも、『カトにいるよ』と電話で言うだけ。相手が必ず来ると自惚れている訳でもなく、単に身を低くして頼むというコンセプトがないのです。
『夢の雫』に登場する泉は、新しい家に越してから地下室の夢をよく見るようになります。地下室の天井付近には細長い天窓があり、壁には粗末な木の梯子。それを下へ下へとおりていきます。いとこである夏生は、新しい家に越してからまた家にやって来るようになっていて、二人は『夢辞典』という本を読み始めます。泉もマユと同じよう、ちょっと気難しいと思われがちな女の子です。
泉の母、裕子は休日になると映画館へと出かけます。映画館の闇が好きで、その闇の中に浸りたいからで、その間は自分からあらゆるものを消す事が出来る、けれどもジェンダーの属性からは解き放たれる事はありません。こうして裕子は日々からの回復をはかります。

とりわけこの三人が、この短編集の不安感を煽ってくれました。死というものが根底にあって、それは物理的のものだけではありません。泉とマユは『噴水』で出会います。二人は同じ歳だけれど、その頃の泉は確かに何かを失いました。それは直接的な出来事とは、切欠はあるにしろ同義ではなくて、泉は自ら命を絶ちます。そしてマユは、泉のようになる事を恐れ、また別のものを失います。そして『夢の黄昏』で裕子もまた何かを失っていたのだなと思われます。裕子が泉のことを、サバサバと話すところが印象的で、失っては回復する日々の不毛なのだなぁなんて考えます。
彼女達が皆女性であるから、少女性と言ってしまってもいいけれど、大人になるほどに次々と失われていくもの、失った時点でそれ以前の自分とは別であり、それ以前の自分は死んでしまっているのだとも思える怖さが感じられて、止まるにせよ、進むにせよ、失われるということを突きつけられるようで、とても不安を感じました。そういう怖さは、けれども静かな不安であるので不快ではなくて、すばらしい翻弄に浸ることができました。

骨笛 (集英社文庫)

THEME:読んだ本。 - GENRE:本・雑誌

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