山ん中の獅見朋成雄

山ん中の獅見朋成雄 舞城王太郎著

祖父の背中には鬣のような毛が生えていて、父の背中にも鬣のような毛が生えていて、やっぱり僕・獅見朋成雄の背にも鬣のような毛が生えている。立派な鬣は馬や、狼や、そのほかの獣を成雄に連想させ、それでは一体自分は何なのかという答えの無い疑問を突きつける。そして成雄は、より人間らしいことに拘ってすごした中学のころ。そのころ成雄はオリンピックを目指そうと勧誘がかかるほどの俊足だった。けれども乗り気になれない成雄は、山付近で書家をしているモヒ寛の弟子入りをする。相撲好きのモヒ寛は、土俵を敷地内にもっていて、成雄はその相手をする。巫山戯てまわし姿で山へと飛び出したモヒ寛を追い、成雄が出会ったものは、額がハートマークの馬。その馬に導かれるようについていった先には、血まみれで倒れるモヒ寛の姿があった。

成雄が山の中を、馬を求めて探し回る様子は、自身のアイデンティティーへの渇望が感じられました。馬を探し回り、山の中で遭遇する怪しい三人組を見つけたときの暗闇の息遣いや、モヒ寛の家でその怪しい三人組と対峙することとなった成雄、そのスピード感が、ぐいぐいとページをめくる手を引っ張って行ってくれました。誰も知らない山奥の村。そこでの奇妙な風習。鬣を剃ってしまった成雄は何かをなくしたのか、新しい自分を手に入れたのか、どちらにせよ、古くも新しくも一人の人間は繋がりから出来ている、変わってもいつかの自分と確かに繋がっていると、そう思えます。殺人あり、カニバリズムありであったけれども、いつもの舞城作品よりは大人しめな感じがするなあと、思われる感じでした。

山ん中の獅見朋成雄 (講談社文庫 ま 49-5)

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 好き好き大好き超愛してる。

好き好き大好き超愛してる。 舞城王太郎著

『愛は祈りだ。僕は祈る。〜』から始まる本作。ものすごく蒼天を思い描いてしまうくらい、清々しいで出しだなぁなんて感じで読み始めました。けれども、そこはそれ。舞城であるから、僕は手足と節を持ったゾウ虫に似ているけれどもゾウ虫とは違う昆虫を、医師から見せられる。なんて流れになる。そしてその昆虫・ASMAは智依子の体の中に寄生している。という具合に急転、渦に放り込んでくれます。SF的幻想グロテスクバイオレンスエピソードが織り交ぜられたお話と交互に、恋人である柿緒を病で亡くした小説家の治が、愛の形、その意識的、無意識的な表出の形や、表されるもの、表さないもの、表れないものの中に表れるもの、を柿緒との記憶と、生きていて小説を書いている自分という過去含め現在の自分として、特別でないただ普通の日常の一つを意識されながら描かれています。かどうかは分からないけれども、私はそう思いました。何気ない日常の一つ一つの中で、注意の払われた度合い、個人のそれに傾ける比重で、付加される意味合いが変わってくるけれども、そのどれもの事柄が出来事としてのみ見るならば等価であるなんて事を言われると、幸も不幸も自分の心向き一つかななんて思えてきます。

治のストーリーの合間合間のお話も、一つ一つが面白くて、大変好みでした。『好き好き大好き超愛してる。』っていう一つの物語ではあるのだけれど、短篇集も一緒に読めたみたいな満足感があって、長編も読み応えがあるのだけれど、短篇も大いに好きな私としては何だか得したみたいな嬉しいようなそんな気持ちになりました。これまで読んだ舞城作品の中では一番好きかもしれない一冊です。シンプルに率直な感じで。舞城本ではミステリ要素が含まれていないものの方が、私には読みやすいし、好みなのかもしれないなとあらためて思いました。
ラブリーキュートなピンクい装丁の装画は舞城さん。中表紙の光沢もまた嬉しいです。けれどもこちらの文庫『好き好き大好き〜』は、単行本『好き好き大好き〜』に併録されていたものが収録されてはいないです。単行本の方は未読なのでそれがとても残念だけれど、未収録作ばんばん併せて短篇集になる時を楽しみにしています。今月末には最新刊もでるということ。

好き好き大好き超愛してる。 (講談社文庫 ま 49-6)

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 九十九十九

九十九十九 舞城王太郎著

ものすごく舞城でした。おもしろかったです。
全七話なのだけれど、二話目まで読んだところで、そういう流れなんだ〜と。それからが、次はどうくるのかと、期待しつつ読み進められ、最終的にはどうなるんだろう?と一気に読破致しました。推理がどうとか、でっち上げ推理がどうとか、見立てがどうとかいうよりも、この錯綜っぷりを大いに楽しめたという感じです。平行多重世界を繰り返し生き続ける、そういったものに付きまとう胸苦しさはありません。人死にもどんどん出て、不穏が付きまとう世界を何度も過ぎて、それでも読んでいる方では閉塞感をあまり感じない、そんなところも舞城だなぁと思います。

これはようやく手を伸ばす事が出来ました。清涼院流水の『JDCシリーズ』を読んだ事がなくて、大丈夫かな?と思っていたのだけれど、知らなくても全く大丈夫でした。

九十九十九 (講談社文庫)

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 スクールアタック・シンドローム

スクールアタック・シンドローム 舞城王太郎著

単行本『みんな元気。』に収録されていた『スクールアタック・シンドローム』と『我が家のトトロ』に、書き下ろし『ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート』を加えた3編収録。


あらゆる責任を放棄して、自分の中で大きな存在となった二十万円のソファの上から動かない。
DVDを見て、小説を読んで、漫画もみる。その上音楽やテレビやネットなんてものまであって、全くもって見るもの、読むものに事欠かない。
「現代の情報量ってすごいなぁ」と思っている『俺』は立派な引きこもり。
当然のように奥さんは仕事に行けと言う訳だけど、「今病気で、カウンセリングを受けるから病院に連れて行け」と言ったら、家を出て行ってしまう。
けれども相変わらずDVDを見ていると、男が押し入ってきて殴りかかってくるし、耳を食い千切って撃退した頃にかかってきた電話は、前の奥さんからのもので、話を聞けば『俺』が15の時に出来た息子が『殺すノート』的なものを書いているらしい…
『俺』は病気だし、会社を辞めて以来全ての責任を放棄していたのだけれど、それでいい筈もないし、自分にも息子の助けが必要だし、親の責任もぽろっと思い出したりする。
という男が主人公なのが『スクールアタック・シンドローム』。
熱血そうで、まともな人間を体現したような『俺』の息子崇史の担任教師内藤と『俺』との対面場面は面白い。
世の中的に当たりな視点と、自分的に当たりな視点とで繰り広げる会話は、どっちも外れてはいないよな〜と思います。
後半、普段は冷めたような崇史が『俺』にまだ何か期待してくれている事を感じとった『俺』が、間違った事を言っては崇史の期待度を下げ、思わず言った言葉が期待度を上げ、今ならまだ間に合うと必死に考えている所が良かったです。必死なんだろうけど、なんだか緩いところが好みです。

『我が家のトトロ』では、みんなにトトロは必要だよ!求む!日常に些細なファンタジーを!とは思いつつ、うちには来ないんだ…なんて思うわけでした。

『ソマリア〜』は、マリアにソが付いてるだけで人名としては中々馴染まないな〜なんて事を考えながら読んでました。地名としてはありなのに不思議だ…
『俺』とソマリアは最初親しかった訳でも無く、『俺』の彼女はソマリアを虐め、当のソマリアは変質的な趣味を持つ叔父に付きまとわれる。そして、究極の特異体質ともいえると思われます。
バイオレンスファンタジーな感じで。

バイオレンスはスパイス的なもので、メインは色んな形の愛だったり情だったりという、いつものごとく舞城な一冊。

スクールアタック・シンドローム (新潮文庫 ま 29-3)

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 みんな元気。

みんな元気。 舞城王太郎著

単行本『みんな元気。』より、『みんな元気。』『Dead for Good』『矢を止める五羽の梔鳥』の3編収録。
本書に収められなかった2編+書き下ろし1編が『スクールアタック・シンドローム』として出ているので、そちらも早々に買わなければ!と思っております。

表題作『みんな元気。』の序盤では、山口家の一人一人が何だか可愛く思えて、ほのぼの気分。寝ている間に宙に浮いている家族がナチュラルに登場しているけれど問題なし。
短編だからか、急展開に翻弄されつつ、それでもしっかり話を追っていけば、臨場感たっぷりの空中戦と、パラレルワールド的なものを堪能する事が出来ました。
なんだか良い話系だな〜と、しみじみしてみたりして。
トータルでは、声に出していたら息継ぎする暇無いんじゃない?っていうくらいの言葉の流暢さに、相変わらず感心しつつ、見覚えのある名前だな〜って思うものを何個か発見しつつ、思ったままにしておく、そんな感じで。

みんな元気。

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