闇のなかの石

闇のなかの石 松山巖著

つるりとし、ごつごつとし、冷たく、強くもあり、脆くもある、石と死を含み込んだ、追憶の向こうと今を行き来する物語です。
今という時の中、その欠片の一端から、想起される過去の時、その繰り返しを頻繁に使われる松山さんのお話は好きで、そこに幻想性なんかが組み込まれていると尚更好みです。が、今回の『闇のなかの石』は、とことん現実密着型で、それゆえ重たい。自虐的で鬱々ぐるぐるした表現が今まで既読のものでは常に見られて、そこからくる可笑し味なんていうものも楽しめるし、それ自体も好みであるし、毎回色々思うところがあったり、感慨深いのです。その手法でとことん現実的だとこうも重たいのかと、これもまた感慨にふけってしまって、切ない気持ちがあとをひきました。それに、小説とは分かっていても、『僕』の父や母、トク伯母さまとの挿話などを綴られると、他書でも描かれていたなぁなどど思い返したり、過去風景を思い描くにつけ、ほとんど知りもしない著者像と重ね合わせてしまったりして、エッセイだったかな?と確認してしまったほどでした。

旅先で墓石を見に行く事が常となっていた『僕』は、石屋の息子であった。幼い頃から墓石に馴染みがあったせいかと思えば、少し違う気もする。そんな『僕』は香港を訪れた際、からゆきさんの墓地を訪ねる。刻まれる数々の名、『僕』が探していたのは何であったのか。という『石の皺』から始まり、巌窟ホテルを訪ねる『蟋蟀』は特に、心惹かれました。四十六歳から鑿一本で岸壁を掘り始め、没するまでの二十一年間、人には狂気的とも見られるであろう事を成した高橋峯吉の造り上げた巌窟ホテルで、意味のある事、意味のない事、解放されているようで束縛されていることなどに思い巡らせます。巌窟ホテルは見てみたいものだなどど思ったけれど、蟋蟀がみっしりいるのではちょっと…なんて思いました。最終話『石段の継ぎ目』がなんとも…このお話が殊更切なさを残させたのだと思います。我が身を振り返ってしまうそんな一冊です。
『石の皺/蟋蟀/赤玉/邪鬼/廃園/悪戯/カオス/石段の継ぎ目』

THEME:読んだ本。 - GENRE:本・雑誌

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 日光

日光 松山巖著

前日までの秋日和とは打って変わって、急激発達低気圧、日本各地に吹き荒れる強風雷雨、ラジオで知ったそのニュースを耳にして『私』は、それらがはやくやって来ないかと期待する、十一月中旬の土曜日。そんな『私』の家はボロ屋どころかボロボロボロ屋で、一階の天井には漏水跡の黒い染み。それは次第に拡大している。

『猫風船』、『くるーりくるくる』と松山さんの掌編、短篇を読んで、その雰囲気がとても好きだなと思っていたのですが、今回読んだ長篇『日光』もまた、その雰囲気が充分に楽しめました。既読の短篇よりも、グロテスクの度合いが割り増しになっているなという感じです。けれども、読後感はもやっとしない。むしろ幻想小説としてはすっきりとした読後感を得られました。
『色は匂へど散りぬるを/我が世誰ぞ常ならむ/有為の奥山今日越えて/浅き夢見し酔いもせず』と四章からなりますが、まず気になったのは『X+C子』という『私』の彼女。なにゆえ『X+C子』?と、その表記が出るごとに気になって仕方がなかったのですが、二章辺りでそういう意味合いか〜と、ふんふん頷きつつ、最終章に到ってその呼び名の発生理由に爽快に頷く事が出来ました。が、もしかすると私の気付くのが遅すぎるのかもしれない予感で苦笑でもあります。そんな小気味良さも感じられますし、一章では、石に乗り縕袍着込んだトボけた爺さんが、『私』を手招きするので、石に乗り込み空の旅。そこで出会うは石褐色の丸岩に乗る赤銅色の丸坊主。その状況はもちろん、展開も可笑しさが込み上げてきます。何度も登場する『ボクガイチバン、ウフフフフッ』なんて言葉も、皮肉交じりに使われる前半部分では可笑しさを、いよいよ後半に到ると狂気じみてきて恐ろしさを煽ります。
日光で出会う、眠り猫と雀、それを追う見ザル、聞かザル、言わザル、それらに関わってしまった事で、奇妙になっていく『私』と『X+C子』の生活、異常も続けば正常に取って代わるを体現するように、奇妙な日常の中で異形へと変化する『私』。特に三章はそのグロテスクな表現が抜き出ています。
登場人物たちは度々『ハムレット』のセリフを引用し、ロケーションは日光、嘘か真か自称千姫、自称藤村操が登場し、混沌の闇を潜って、目指す日の光。これは大いに楽しめました。

日光

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 くるーり くるくる

くるーり くるくる 松山巖著

『猫の事情、人の都合/陰陽石/くるーり くるくる/背中の荷物/遍路もどき/通夜のカンケリ/淋しい顔』の七篇。
読んでいると、全体的にセピア色のイメージが湧いてきます。語り手が、今と過去とを行ったり来たりと思い巡らせるのに合せて、読んでいる方もノスタルジックな気持ちになってきます。見知っていたはずの人の顔をはっきりと思い出せないのだという風なところや、自分の住んでいた街も、昔一度行ったきりの街も、大きく変わってしまって面影がないなんて感じのことが、繰り返し出てくるのだけれど、そうすると特に「あぁ、そうだよなぁ」なんて思います。近場の道なのに久々に通ってみれば、子供の頃とは違っていて、変わっているのは認識していたというのに、そういえば、ここは草広場になっていて、幾つもの大きな岩がてんてんと在って、その上を飛び渡っていたなぁとは思い出すけど、それはこの道の右手側だったか左手側だったか、はっきりと思い出せなかったのはつい先日。その時になって初めてずいぶん変わっていたんだなと気付いたのかもしれません。よく遊んだ公園の遊具が無くなっていたのに気付いた時は、何気に淋しい気持ちになりましたし。それほど昔の事でもないのになぁと、世の中の速度の速さを感じます。
本書の語り手は昭和二十年辺りに産まれて、その後を過ごしています。積年からくる過去返りの深度が幅広く、それゆえ朦朧さが加わって、セピア感を大いに味わう事ができました。

くるーりくるくる

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 猫風船

猫風船 松山巖著

古新聞の記事に世界の未来を憂い、呪いそしてそれをビリビリと引き裂くホームレスA。それを集めて自分達の住居であるダンボールに貼り付けるホームレスB。ふたりの住居はいつしか球体住居と化し、ゴロゴロ転がしては神出鬼没の『球体住居』。
ビルの工事現場から白骨が発見された事を機に、三十年前に作った落とし穴を思い出す。思い返すと気になって仕方が無い。あの落とし穴はどうなったのか?穴から呼ぶのは誰なのか?あの落とし穴の奥を思う『落とし穴』。
強い日差し、寝不足の体、どうにか休みたいが木陰は満席。日が照りつけるベンチでさえも三毛猫が占拠中。そこを間借りしたはいいが猫が騒ぎ出す。猫はいつの間にか大きくなっている。熱で膨れたのだろうその体は空へと向かい、見上げた空には幾つもの、表題作『猫風船』
炎天下の葬列は中々進まず脱落者がちらほらと。鳥の声が響いて見てみれば、寺の屋根には幾羽物もの鳥たちが訴えるようにこちらを見ている。促されるように見た先は脱落者達がビルの上から飛び立つところ『鳥たち』。
サンタを助けた、金融ローンのプラカードを掲げた。お礼する事を望むサンタに、胡散臭さと戸惑いと、信用ならなく断るも、なおも食い下がるサンタに金の掛かる無理難題を吹っ掛けてあしらうが、ホームレス同然であるサンタに叶える術も無く、その度にぽろぽろと涙をこぼす。舞い散る雪と共に夢に現れるサンタを思うと気になって仕方が無い『泣き虫サンタ』。

四十一編からなる掌編奇譚集。流れる季節の中で、さり気なく寄り添っている不思議な出来事。春夏秋冬、朝も昼も夜も訪れているのだけれど、夕暮れ時に閉じ込められたような世界を感じられました。不思議だったり不気味だったりするのだけれど、薄ら寒さのようなものが少なくて、こんな風に過ごしていて、とうとう何かの呪いに当たってしまっても、まぁなんだか納得してしまうかもしれないなぁなんて思います。全編通してとても好きな世界観でした。

『アカンベー/ホホエミ食堂/ラブレター/そっくりな他人/ヒトデナシ/みんな待っている/琉金/落書き/ゴキブリ/ウミ、ドチデスカ/球体住居/落とし穴/素晴らしき伝説/猫風船/蝉/小さなゴジラ/とてもセクシー/指人形/ヒノハナ/鳥たち/筋肉隆々/ロボット売ります/陽気な三人/座敷のイロハニー/蟻/天使のくせに/カレー味の消防団/平和ですなあ/破れ太鼓/大事なもの/プチ家出/冬眠/風邪はひけない/泣き虫サンタ/節分/動物園に行こう/花見の女/ポロポロ落ちる/誰もが眠る日/新住民/万物創生』

猫風船

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