いさましいちびのトースター
いさましいちびのトースター トーマス・M・ディッシュ著
夏別荘の中には五台の電気製品が取り残されていました。一番年長のフーバーの掃除機、AM専用目覚ましラジオ、明るい黄色の電気毛布、首の自由に曲がる卓上スタンド、そして一番若いトースター。みんな森の外れの別荘でのんびり過ごしていたけれど、不安でいっぱいでした。時計を兼ねたラジオが言うには、二年と、五ヶ月と、十三日も、だんな様はこの夏別荘に訪れていなかったからです。そして五台の電気製品たちは、勇気をもってだんな様の家へと向かう旅を始めるのでした。
森を抜けるように旅をする電気製品たちに、苦難が何度も訪れるのだけれど、そのたびに、時に厳しく、時に優しい口調で、みんなを励ますトースターと、それに答えてもう一度がんばろうとする他のみんなが、とても温かい気持ちにさせてくれます。メルヘンちっくな気持ちで読み進めていったけれど、掃除機が「われわれはここで必要とされておらん。帰るんじゃ…」と言い出した辺りには、うるっときてしまいました。電気製品の天敵、泥棒との対峙シーンとその前後が特にお気に入りです。続編は宇宙冒険に乗り出しているようなので、そちらも楽しみです。
夏別荘の中には五台の電気製品が取り残されていました。一番年長のフーバーの掃除機、AM専用目覚ましラジオ、明るい黄色の電気毛布、首の自由に曲がる卓上スタンド、そして一番若いトースター。みんな森の外れの別荘でのんびり過ごしていたけれど、不安でいっぱいでした。時計を兼ねたラジオが言うには、二年と、五ヶ月と、十三日も、だんな様はこの夏別荘に訪れていなかったからです。そして五台の電気製品たちは、勇気をもってだんな様の家へと向かう旅を始めるのでした。
森を抜けるように旅をする電気製品たちに、苦難が何度も訪れるのだけれど、そのたびに、時に厳しく、時に優しい口調で、みんなを励ますトースターと、それに答えてもう一度がんばろうとする他のみんなが、とても温かい気持ちにさせてくれます。メルヘンちっくな気持ちで読み進めていったけれど、掃除機が「われわれはここで必要とされておらん。帰るんじゃ…」と言い出した辺りには、うるっときてしまいました。電気製品の天敵、泥棒との対峙シーンとその前後が特にお気に入りです。続編は宇宙冒険に乗り出しているようなので、そちらも楽しみです。
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アジアの岸辺
アジアの岸辺 トマス・M・ディッシュ著
たしか、2年くらい前に、もの凄く欲しくて、2500円という、私の中での1冊の本の値段としては高いにも関わらず、思い切って購入したもの。それというのも、この装丁がかなり気に入ったからなのだけど、手に入ると、ひとまず満足してしまう性質なので、今頃読み終えているのわけです。
13コの物語からなる、SF短編集です。SFというと、どうしても構えてしまうのですが、最初の『降りる』を読んで、そんな姿勢は必要ないなということが感じられました。
この『降りる』妙に気に入ってます。どんな場所でも本を読むことが出来る彼は、デパートの出口へ向かおうと、本を読みながらエスカレーターを降りるのですが、中々着かない。そして、行き過ぎてどうやら地下に来てしまったのではないかと悟るのですが、気づいた場所には上りのエスカレーターがない。なので、最下部まで行けば逆に上りのエスカレーターが在るだろうと下り始めるのですが…っていうお話なんだけど、この彼の行動や心情が凄く共感できるのです。
例えば、扉も窓もない場所に閉じ込められて、理由も分からなければ、この先も分からないなんて特異な状況におかれた時に、一気に自我を失ってしまうのか、それとも、何度も絶望と興奮に襲われても、結局は身体が朽ちてしまうまで、自我を捨てきれないか、それは人それぞれなわけです。
『争いのホネ』の設定も結構好きです。死者を、すぐに埋葬したり、火葬したりするのは、故人への思いやりに欠けるということで、防腐処理をして、まるで生きてそこに居るかのように、生活をするというお話。
『リスの檻』は男が監禁されている。特異な状況という点では『降りる』と共通しているけれど、こちらは、訳が分からないながらも、生きていられるという状況が、不変的に続いていくのではないかと感じられる状況なわけです。足場のない無限の様な自由より、限られた場所、たとえ檻の中でも、その方が安心感が得られる場合もあるのだろうなぁ、みたいな感じです。
『カサブランカ』、これは、現実的に恐いなと。言葉も余り通じない異国に夫婦で行ったら、自国が戦争勃発で、カードも使えない、換金してもらえない、ゆえに、私物を売り払うしかないのだけど、その上、滞在していたホテルは戦争の影響で値をあげる、店に行ってもろくなものは売ってもらえない。これだけでも、普通にどうしようって感じです。
表題作『アジアの岸辺』は、ファンタジー的です。こちらも、異国を訪れた男と、街中を歩く時に、よく見かけるようになった女と、男の子が登場するお話。こう書くと、なんだか光の差す町並みを思い浮かべてしまいそうだけど、雨とか、霧とかそっちのイメージです。本書に収められた13編は、設定も、書かれ方もそれぞれだけれど、この表題作で繰り広げられる流れが、全てに通じているような気がします。
『死神と独身女』はタイトル通りなわけです。死神に連絡&接触を実行する女の話な訳だから、死を希望しているのだけれど、悲壮感は感じられず、この短編集の中でも、軽い感じです。
『黒猫』は一見、男と猫の良い話系なの?と思わせておいて、そうはいかせませんといった感じ。この短さで表現されると、読むほうとしてはありがたい限りでございます。
『話にならない男』は家族、つまり自宅以外の場所での許容範囲外の言葉を話す、会話するということは、法律違反で、そうするためには免許が必要という世界。主人公は免許を取得するために、試験を受け、仮免許を取得する。本当の免許を取るためには、再試験を高得点で合格するか、免許所持者からの推薦を3つ貰わなくてはならなくて…という感じです。推薦を得るために、奮闘という力強さはないけれど、努力をする主人公がどのように人と関わるかが読みどころ。とりわけ、スーパーで出会った詩人の女のあたりが良いかと。それに、素直に安心できるラストでした。
と、ここまでで、好みのものと、印象に残った物の感想を、半分位は書けたと思います。全体的にシュールです。それと、イメージとしては、表やら裏やら、色々景色は変わっているのに、結局、限られた場所を繰り返し回り続けるしかない、メビウス的な感じです。大奮発の2500円を後悔せずにすみました。
たしか、2年くらい前に、もの凄く欲しくて、2500円という、私の中での1冊の本の値段としては高いにも関わらず、思い切って購入したもの。それというのも、この装丁がかなり気に入ったからなのだけど、手に入ると、ひとまず満足してしまう性質なので、今頃読み終えているのわけです。
13コの物語からなる、SF短編集です。SFというと、どうしても構えてしまうのですが、最初の『降りる』を読んで、そんな姿勢は必要ないなということが感じられました。
この『降りる』妙に気に入ってます。どんな場所でも本を読むことが出来る彼は、デパートの出口へ向かおうと、本を読みながらエスカレーターを降りるのですが、中々着かない。そして、行き過ぎてどうやら地下に来てしまったのではないかと悟るのですが、気づいた場所には上りのエスカレーターがない。なので、最下部まで行けば逆に上りのエスカレーターが在るだろうと下り始めるのですが…っていうお話なんだけど、この彼の行動や心情が凄く共感できるのです。
例えば、扉も窓もない場所に閉じ込められて、理由も分からなければ、この先も分からないなんて特異な状況におかれた時に、一気に自我を失ってしまうのか、それとも、何度も絶望と興奮に襲われても、結局は身体が朽ちてしまうまで、自我を捨てきれないか、それは人それぞれなわけです。
『争いのホネ』の設定も結構好きです。死者を、すぐに埋葬したり、火葬したりするのは、故人への思いやりに欠けるということで、防腐処理をして、まるで生きてそこに居るかのように、生活をするというお話。
『リスの檻』は男が監禁されている。特異な状況という点では『降りる』と共通しているけれど、こちらは、訳が分からないながらも、生きていられるという状況が、不変的に続いていくのではないかと感じられる状況なわけです。足場のない無限の様な自由より、限られた場所、たとえ檻の中でも、その方が安心感が得られる場合もあるのだろうなぁ、みたいな感じです。
『カサブランカ』、これは、現実的に恐いなと。言葉も余り通じない異国に夫婦で行ったら、自国が戦争勃発で、カードも使えない、換金してもらえない、ゆえに、私物を売り払うしかないのだけど、その上、滞在していたホテルは戦争の影響で値をあげる、店に行ってもろくなものは売ってもらえない。これだけでも、普通にどうしようって感じです。
表題作『アジアの岸辺』は、ファンタジー的です。こちらも、異国を訪れた男と、街中を歩く時に、よく見かけるようになった女と、男の子が登場するお話。こう書くと、なんだか光の差す町並みを思い浮かべてしまいそうだけど、雨とか、霧とかそっちのイメージです。本書に収められた13編は、設定も、書かれ方もそれぞれだけれど、この表題作で繰り広げられる流れが、全てに通じているような気がします。
『死神と独身女』はタイトル通りなわけです。死神に連絡&接触を実行する女の話な訳だから、死を希望しているのだけれど、悲壮感は感じられず、この短編集の中でも、軽い感じです。
『黒猫』は一見、男と猫の良い話系なの?と思わせておいて、そうはいかせませんといった感じ。この短さで表現されると、読むほうとしてはありがたい限りでございます。
『話にならない男』は家族、つまり自宅以外の場所での許容範囲外の言葉を話す、会話するということは、法律違反で、そうするためには免許が必要という世界。主人公は免許を取得するために、試験を受け、仮免許を取得する。本当の免許を取るためには、再試験を高得点で合格するか、免許所持者からの推薦を3つ貰わなくてはならなくて…という感じです。推薦を得るために、奮闘という力強さはないけれど、努力をする主人公がどのように人と関わるかが読みどころ。とりわけ、スーパーで出会った詩人の女のあたりが良いかと。それに、素直に安心できるラストでした。
と、ここまでで、好みのものと、印象に残った物の感想を、半分位は書けたと思います。全体的にシュールです。それと、イメージとしては、表やら裏やら、色々景色は変わっているのに、結局、限られた場所を繰り返し回り続けるしかない、メビウス的な感じです。大奮発の2500円を後悔せずにすみました。
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