百器徒然袋−風

百器徒然袋−風 京極夏彦著

招き猫が呼び込んだ、珍妙成り代わり事件の『五徳猫』。拉致監禁の末、殺人の重要参考人となってしまう本島。同じ頃、神であり唯一探偵である榎木津礼二郎に挑戦状を叩きつける霊感探偵・神無月が現れる『雲外鏡』。浮気の素行調査の行く先々で、怪しい者と認識された益田は、巷で流行の空き巣犯と同じ道筋を辿っていた。時同じく、本島の幼馴染・近藤の家も空き巣にあう。しかし、なくなっていたものといえば、『五徳猫』事件の時の招き猫のみ。その代わり、いつ手に入れたものか知れない、古めかしい箱に入った面が見つかる『面霊気』

榎木津大活躍で大満足の一冊でした。百鬼夜行シリーズ本編のほうは、どうにも遣る瀬無い事件が多いけれど、こちらは珍事件が多いのと、短篇集ということで、気楽に読めます。中禅寺の笑顔率も高い。最後は榎木津が何とかしてくれるだろう!と心強くもあります。『百器徒然袋−雨』の最後の最後で苗字が明かされた、本島。今回も最後の最後で名前が明かされています。その『面霊気』が、一番楽しく読めました。益田くんはどんどんへたれになっているなぁとか、鬼苛めを開こうとする榎木津の隠されたあるのかないのか凡人には分からない真意とか、微笑ましくもありました。榎木津も榎木津礼二郎という面をつけているというところ。なるほど、みんな時と場所に応じた面を付けて生きているよななんて思ってしまいます。でも榎木津はどんな時でもどんな場所でも榎木津なんだと、そう思いました。
『五徳猫 薔薇十字探偵の慨然/雲外鏡 薔薇十字探偵の然疑/面霊気 薔薇十字探偵の疑惑』の三篇。

百器徒然袋-風 (講談社文庫 (き39-12))

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 陰摩羅鬼の瑕

陰摩羅鬼の瑕 京極夏彦著

白樺湖畔に聳える洋館・通称鳥の城の主・由良昂允は五度目の妻を娶るところであった。八年前、十五年前、十九年前、二十三年前と、由良昂允は、その新婚初夜を明かすと共に、花嫁を亡くしていた。政略も何もなく、ただ恋愛のみで婚する五度目の花嫁・薫子を守る為、由良邸に招かれたのは、探偵・榎木津礼二郎その人であった。が、榎木津は発熱のため一時的に目が見えない状態になっていた。目は見えずとも、よく見える榎木津は、眼鏡を掛け視界を遮断し、介助の助けにきた関口巽と共に由良邸へと馳せ参じる。

『塗仏』以来、サイドストーリーものを読んでいたものですから、今回は重たい。本の重さもそうだけれど、やっぱり関くんが語ると重さが、というより、胡乱さが増します。ニ割り増しです。側にいたら苛々しそうな関くんを決して憎めないのは、やっぱり自分の中にも関くんが感ずるような曖昧模糊としたものが、しっかり存在しているという事かもしれません。さんざんな言われようの関口、榎木津にタツミ×2と呼ばれた方が馬鹿にされているような彼は、それでもそこに在ることを皆が見止めていると思います。いくら自分が曖昧にしていても、榎木津や中禅寺、木場のようにはっきりとした人から認識されそこに在るということ、他者から認識されているという事が既に存在として在る、ことに繋がるなんて思います。いくら境界が曖昧でも。

今回のお話しは、大分早い時点で結末が透けて見えてしまうのですが、そこでの、関口、中禅寺、榎木津、元刑事の伊庭の動き、活躍、憑き物落しの具合が、一体どんな風に締めるのか、それはやっぱり気になるところです。最後に一撃、榎木津炸裂しているけれど、それにしても今回は大人しめだったなぁというのと、皆が皆、京極堂の語り落しに素直に過ぎて、こちらも大人しめだったなぁというのが、感想でしょうか。テーマとしては自分と、自分以外、魂と魄、個と世界なんて好みのテーマがずらりだったのだけれど、今までの百鬼夜行シリーズの中では大人しめ、驚きというインパクトに欠けるといったところでしょうか。少なくとも私としてはですが。
ただ、『百鬼徒然袋−雨』や『今昔続百鬼−雲』のエピソードが垣間見えるなんていうのが、ファンとしては何気にたまらなく嬉しいものです。次は探偵・榎木津礼二郎活躍の『百鬼徒然袋−風』を読む予定なので、今回の大人しさを払拭するくらい榎木津が大暴れしてくれたらなぁなんて思います。

文庫版 陰摩羅鬼の瑕 (講談社文庫)

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 今昔続百鬼−雲〜多々良先生行状記〜

今昔続百鬼−雲〜多々良先生行状記〜 京極夏彦著

常識人には分かりがたい趣味嗜好を持つ者。そしてその趣味嗜好に頭っからどっぷり浸かって、浸かりきって生息する者−つまり馬鹿であるところの俺・沼上蓮次。その沼上をして馬鹿と言わしめる男・多々良勝五郎大先生は、妖怪研究家であった。フィールドワークこそ意味があるという多々良先生に連れまわされ、いたる所で遭難、貧困、更には事件に巻きこまれ、いつも多々良先生に腹を立てながらも、伝説や石物に目が無い沼上は、妖怪道まっしぐら、頭の中はそればかりの多々良先生の言動全てに振り回されながら、各々の嗜好の研究を満たすべく、あちらこちらと転げまわる。

これはもう、笑えました。妖怪ごと以外には目もくれず、話し始めればきりがない、そのうえ何とも自己中心的な言を発する多々良先生と、それに腹を立てながらも、ぶつかりつつ、あしらいつつ、それでも我慢のならない時もありつつ、険悪上等、次の間には何事もないようにまた繰り返される伝承めぐりの旅。百鬼夜行シリーズ本編とは違って、軽い気持ちで読めました。重々しさが軽減されています。中禅寺好きの私としては、最終話に登場してくれたのもまた嬉しいものの一つ。妖怪好きの村木老人の養女・富美ちゃんの爽やかながら腹の座りのいいところなんかも良かったです。『多々良先生行状記』、多々良先生と沼上くんの行き当たりばったりの旅、これはまた読みたいものです。
『岸涯小僧/泥田坊/手の目/古庫裏婆』の四篇。

文庫版 今昔続百鬼 雲 〈多々良先生行状記〉 (講談社文庫)

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 幽談

幽談 京極夏彦著

七年前に訪れた旅先を、七年前のようになぞり歩き、行き着く和風旅館。七年前と同じ部屋をとり、来る道々も、旅館でも妻との思い出を思い巡らせる男が真実求めていたものは−『手首を拾う』は、『幽談』の一話目に相応しいなと思いました。
見知らぬ町を歩き回り、自分も時分も曖昧になってゆく男は、それでも見知った場所を幾らか見つける。けれどもそれは、男の望むところではなくて、見知らぬ方へと足を向けていく。そこで、旧友の森田くんが立っているのを見つけた−『ともだち』の、この淡々と語られる語り口と内容がとても好みでした。
“これから話す事柄は実話ではない”から始まる『成人』も面白かったです。怪談について、実話怪談について、あれこれされている京極さんならではという感じもありつつ、或る人にだけ通ずる符合。それから、もっとも枠外の者がはまり込んでいく様が怖ろしいです。
『十万年』や『こわいもの』のように、或るもの、ことへの観念が詰まったお話も大好きでした。以外に笑えたのが『下の人』でありました。題字:桐生眞輔さん。装丁と、中紙の一部が渋いです。
『手首を拾う/ともだち/下の人/成人/逃げよう/十万年/知らないこと/こわいもの』の八篇。

幽談 (幽BOOKS)

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 覘き小平次

覘き小平次 京極夏彦著

幽霊役をやらせれば、観る者を怖気たつような気にさせる木幡小平次は、大根役者である。会う者会う者を、苛々とさせ、痴れ者、うすのろと、面と向かって罵られるのが常である。役者でありながら演じることが出来ない。小平次はただそこに在るだけである。
自分の生き様とは斯くあるものさと、意地だの諦めだの様々なものを相混ぜながら、流され生きてきた人々にとって、あらゆることに反応を示さず、生き様を斯くありとすべく演じる素振りの欠片も無い、芝居に上がらぬ時にもただそこに在るだけの小平次は、気味が悪く怖ろしい。名も体も実を眩まし偽を真とし生きる者にとって、それは苛立ちを呼び殺意さえ呼び込む。

各章のタイトルにそれぞれの名前が上がる。そしてその一人一人の物語がスタートします。それが小平次という一つのものを背景に繋がりながら、展開していくのが面白かったです。それぞれの人の内側を、それこそ覘けるような感じでした。誰もが闇の部分を持っていて、こうして語られない限りは、対面しても見ることは出来ないだろうと思う人々。それを暴き出すのは、小平次と接したことで心の奥に感じ始めた恐怖であり、苛立ちなのです。大小あっても誰もが自分としては後ろ暗いと思うようなものを持っているはずで、小平次のような者がそばに在ったなら、たしかに心落ち着かず、それが苛立ちにかわるのだろうなぁと思ってしまいます。それも小平次が生きて在ると認識出来ていればこそ強気に腹立ちまぎれに小言くらいは言えるかもしれないけれど、幽霊然りとした状況の中で出られた日には、私ならば即ぷるぷると退散することだろうなと思いました。

覘き小平次 (角川文庫 き 26-12 怪BOOKS)

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