地図

地図 初期作品集 太宰治著

作家・太宰治誕生以前の作品を集めた作品集『地図』。習作や初期作品と呼ばれ、十五歳の頃から仲間と作った同人誌に書かれていたものや、太宰治以外の筆名で発表されていたものなどが収められています。
年代順に掲載されているようで、正直最初の方はあまり面白くないのです。けれども、のちの太宰作品に通じるものは確かにそこにありました。とは言っても、私が幾らか読んだ事のある太宰作品に通じるものがあるなぁと感じただけなので、色々とは言えませんが、特にそうと感じたのは、自意識の強い人物に対しての描写でしょうか。それが多くみられたように思います。それで、完成度が上がると人間失格のようなものになっていくのかなあ、などと考えながら読みました。

本書の中ころから過ぎあたりからは、面白く読めました。『彼等と其のいとしき母』あたりからでしょうか。そのあたりになると、自意識のメリハリの塩梅がほどよく、加えてうら淋しさもあり、好みでした。それから後半の『貨幣』。百円紙幣目線で、華々しく銀行から旅立つところや、一人また一人と、人の手をわたり遠く旅する間に、老け込んでいってしまう彼女の人生(紙幣生?)がおもしろくもあり、こちらの心も淋しいような、温まるようなというラストがまた良かったです。そしてこの初期作品集『地図』のラストを飾る『洋之助の気焔』は読み進めるにつけ面白い一作でした。本日太宰治生誕百年でございます。

地図 初期作品集 (新潮文庫)

THEME:読んだ本。 - GENRE:本・雑誌

| TRACKBACK:0 | COMMENT:1 | HOME |

 推定少女

推定少女 桜庭一樹著

自分自身でも信じがたい事件をおこして逃亡者となった『ぼく』こと巣籠カナ。パトカーのサイレンがひっきりなしに鳴る中、田舎町唯一の繁華街、その田舎町で唯一の本当の夜を持った街角で、カナは少女と出会う。ダストシュートの中に真っ白な裸体。カチンコチンに凍りついていた少女は、突然目を見開く。不思議な少女は記憶喪失で手には銃が。雪のように白い肌を持つ少女に、カナは白雪と名付け、二人で逃げる。少女二人の放浪は東京へとおよぶ。

2004年にファミ通文庫から刊行されたものの再刊だそうです。初刊行時と違うのはエンディングが三つあること。桜庭さんのラノベ時代の作品のいくつかを読ませてもらっていますが、この『推定少女』はその中でも、個人的好きランキングの上位になりました。ストレートに伝わってくるこの、ぐるぐる、もやもやの感情。なんでこんなにまっすぐにこっちまで届いてくるのかなぁなんて思います。
カナの大人になりたくない気持ち。ものすっごい頷けるところがたくさんあって、十五歳なんて年齢はとっくに過ぎてしまっているけど、未だにカナと同じように感じてしまう自分の気持ちがどこかにあって、そんな場所にダイレクトに入り込んできます。
火器戦士・千晴少年の、戦場だから最後まで生き抜いた者の勝ちみたいなのも頷けるし、カナのように、とにかく何処かに逃げたいというのも分かる。この本の中で共感できるのは十五歳の子たちにで、『こどもの言葉』の方がずっと分かりやすいよ!なんて思ってしまいます。そして自分は大人に成りそこなっている…とか思ったりもしましたが…。
ストレートにダイレクトに伝わる大人になる前の十五歳『推定少女』の、この言いようのない感情が堪能できました。装画は増田佳江さん。

推定少女 (角川文庫)

THEME:読んだ本。 - GENRE:本・雑誌

| TRACKBACK:0 | COMMENT:0 | HOME |

 白いメリーさん

白いメリーさん 中島らも著

いわゆる「噂」の伝播のプロセスとその変化過程と消滅を調べる「私」はフリーライターの四十男である。しょうもない取材の後に仲間と飲み、くだをまき帰ってみると、娘の口から興味をひかれる話題が……それは白い帽子に白い服、白いタイツに白い靴、白い髪に白い肌をしたおばさん「白いメリーさん」というのが存在しているという噂話だった。しかも白ばかりではなく青だの紫だの地域によって様々だという。都市伝説を調べるフリーライターとして、「私」は娘が嫌がるのを押して取材を始める−『白いメリーさん』

『日の出通り商店街 いきいきデー』から始まる短篇集です。一番手の『日の出通り〜』は、この話知ってるかも?と思いながら読み進めました。ちょっと違っているところもあるけれど、いつだったかの『世にも奇妙な物語』でやっていたお話しではないかなと思います。『日出通り〜』ひとつとっても笑いがシニカルです。
『夜走る人』もなかなか好きでした。十年前から街なかを走り始めた「私」。夜中に開いている大工道具屋や、プロレス技をかける通り魔、公園の辺りに車で住んでいる浮浪者など、不思議なことは意外とあるのかもしれないと思っていたその日、不思議が回り始めます。が、浮浪者はそう来るのか、大工道具屋はそうなのか、プロレス技通り魔ってそうなんだと、明かされていく先に「私」の行方があるのです。
『掌』のホラー感。『白髪急行』の幻想感も好きでした。
『日の出通り商店街 いきいきデー/クロウリング・キング・スネイク/白髪急行/夜走る人/脳の王国/掌/微笑と唇のように結ばれて/白いメリーさん/ラブ・イン・エレベーター』の九篇。

白いメリーさん (講談社文庫)

THEME:読んだ本。 - GENRE:本・雑誌

| TRACKBACK:0 | COMMENT:0 | HOME |

 草祭

草祭 恒川光太郎著

そこかしこが異界と隣り合わせにある美奥。その美奥の町からふと異界にまぎれこんでしまう人々。不思議が密接している美奥でおこる物語五篇を収録した短篇集『草祭』。

恒川ワールドです。大好きです。美奥に住みたいくらいです。ファンタジックな世界観なのだけれど、ものすごくシビアな現実もしっかりそこにあって、ゆえに不思議さに心をつかまれてしまいます。不思議さを、すとんと、さらりと、受け入れる瞬間なんてものがあるのだけれど、その受け入れ加減の自然さが、妙な怖さも感じさせてくれました。現実から異現実とでも言ったらいいのか…そこに踏み入れるときの境界が一瞬で霧散するみたいな感じ。
一話一話を読むごとに、美奥に接する異界の曖昧さが形を現してくるように感じます。読みながら脳内でその異界の姿を想像して構築されてゆくのはとてもおもしろいです。各話にちりばめられたそれらを集め、『くさのゆめがたり』や『朝の朧町』の辺りで整理する。それでも美奥とそこにある異界は美しく奥深いものでありました。『けものはら/屋根猩猩/くさのゆめがたり/天化の宿/朝の朧町』の五篇。装画は影山徹さん。

草祭

THEME:読んだ本。 - GENRE:本・雑誌

| TRACKBACK:0 | COMMENT:0 | HOME |

 都市伝説セピア

都市伝説セピア 朱川湊人著

二十五年前の夏、精神の安定を欠いていた『私』は祖父の家に厄介になっていた。神社の夏祭りで出会った不思議な少女ノンコ。右側の前歯がないのがたまに瑕のノンコは『私』を河童の氷付けの元へと案内する。そこには、泥を三角に積んだような太った男がビールケースに腰掛け、バスが止まっていた−『アイスマン』を筆頭に五篇からなる短篇集。

2、3年近く積読になっていたのですが…おもしろく読めました。バックスリップを繰り返す『昨日公園』や、自分が恨まれているのではないか?と思われる人物に車窓から出会う『月の石』はとくに好みでした。親友を救おうと幾度も昨日を繰り返す少年のひたむきさと、どうしても変えることの出来ない現実を前に何を一番に考えるべきかその決断。その悲しさと、今現在大人になり、自分の子供とのキャッチボールを楽しみながらその合間に思い返すその頃の記憶とが、『昨日公園』はまさにセピアの色にふさわしく思える一篇でした。
別れてしまった者への罪悪感。そこまでとはいかなくても、後悔というものは、大抵の人が誰かにどこかしら持っているものではないでしょうか?それが亡くなってしまった人たちであればなおのこと。こうしておけば…ああしていれば…そう思ってしまうのが人ってものだよなぁと思うと、私もあの車窓から誰かが見えるのではないかと、そう考えてしまう『月の石』。あるものへの執着心からくる嫌〜な感じの怖さを余韻に残す収録された他作品に比べほんわりとした読後感でした。けれどもその嫌〜な感じの余韻のほうも大いに楽しめましたが。『アイスマン/昨日公園/フクロウ男/死者恋/月の石』の五篇。


都市伝説セピア (文春文庫)

THEME:読んだ本。 - GENRE:本・雑誌

| TRACKBACK:0 | COMMENT:0 | HOME |
| HOME | NEXT

new

recommend-nowadays

草祭
恒川光太郎著:草祭
異界と繋がる美奥を舞台にした短篇集
感想はこちら

咲くや、この花  左近の桜
長野まゆみ著:
咲くや、この花 左近の桜
左近の桜シリーズ第二作
感想はこちら

恋文の技術
森見登美彦著:恋文の技術
登美彦氏最新刊!
黒髪の乙女や達磨もひっそりと…
感想はこちら

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫) 秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)
米澤穂信著:秋期限定栗きんとん事件 上・下
待望の小市民シリーズ
感想はこちら

美女と竹林
森見登美彦著:美女と竹林
妄想炸裂!登美彦氏随筆集
感想はこちら

NO.6〔ナンバーシックス〕#7 (YA!ENTERTAINMENT)
あさのあつこ著:NO.6 #7
一年ぶり、シリーズ最新刊!
感想はこちら

左近の桜
長野まゆみ著:左近の桜
デビュー二十周年を記念する、新シリーズ第一作。
感想はこちら

カルトローレ
長野まゆみ著:カルトローレ
作家生活二十周年記念作。
感想はこちら

倒立する塔の殺人 (ミステリーYA!)
皆川博子著:倒立する塔の殺人
ミステリーYA!
感想はこちら

夜市 (角川ホラー文庫 つ 1-1)
恒川光太郎著:夜市
文庫がでました。
感想はこちら

category

comment

trackback

profile

romi

Author:romi
本の感想を細々と。
週に一冊くらいは本を読めたらいいな、というゆるい感じでやっています。TB・CMなど大歓迎です。
最近ちょっとばかりスパムが多いのでTB・CMは承認後に表示させて頂いています。

時々更新写めも


☆mail☆

 

にほんブログ村 本ブログへ
↑気になる本の感想・書評などをお探しの時には…こちら

link

このブログをリンクに追加する

search

rss